EUが共通特許制度

EUが共通特許制度という記事が日経ネットに出てました。日本語の記事ではこれ以外にはなさそうでしたね。この記事を読むと特許制度を一元化するとまで書いていますが、必ずしもそこまでではないかもしれません。


欧州連合(EU)加盟27カ国はEUの共通特許制度を新たに設けることで合意した。特許の紛争処理にあたるEU特許裁判所も創設、域内の特許制度を一元化する。特許取得と紛争処理制度を簡素にして企業や個人の負担を軽減、域内の技術革新を促すのが狙い。欧州で事業を展開する日本企業の知的財産戦略にも好影響を与えそうだ。

via: NIKKEI NET(日経ネット):国際ニュース−アメリカ、EU、アジアなど海外ニュースを速報

ちょっと英語のサイトもあまりわからないなりに眺めてみたんですが、「一元化する」というとちょっと期待しすぎかもですね。



The EU patent should constitute a third option. Applicants should remain free to apply instead
for a national or a European patent. This Regulation is without prejudice to the right of the
Member States to grant national patents and should not replace Member States' laws on
patents or European patent law as established by the EPC.

via: Proposal for a Council Regulation on the Community patent - General approach(pdf)
って書いてあるようなので、今まで通り各国ごとの特許、現行の欧州特許庁で審査を行って各国ごとに展開する特許とは相変わらず存在したままで、また新たな枠組として構築されるもののようです。そのため、(新しいEU patentそのものの仕組みはシンプルになったとしても)全体としては制度はより複雑化することになると思われます。

また、


If the proposed changes take effect, businesses could see a significant reduction in the costs of managing their intellectual property. However, thorny practical issues still have to be resolved – including the extent to which the new EU-wide patent claims would have to be translated into other languages in the 27-country bloc.

via: FT.com / Brussels - Ministers back EU patent reform plan
というあたりも気になります。
おそらく自国の言語に全く翻訳されていない特許が自国で権利を有することに抵抗感を持たない国はないでしょう。EU全域で有効とするのであれば、翻訳を提出しなければならない言語数が増える可能性もあります。あるいは、翻訳を提出した国のみで権利が有効であるような枠組みになるかもしれませんが、そうすると現行の欧州特許と比較したメリットが小さくなるかもしれません。

欧州全域で権利化するような企業にとってはメリットが有るかもしれませんが、限定して数カ国でのみ権利化していた企業にとっては、訴訟などに発展する場合以外には大きなメリットがないのかもしれませんね。年金の支払などの事務が一元化されるのは大きなメリットかも知れませんが。

特許の審査開始時期を遅らせる

手元にないので確認できないのですが、11/4の日経新聞に特許の審査開始時期を遅くするかもしれないというような記事が載ったようですね。

個人的には是非この制度実現して欲しいものです。

いろいろな製品開発をしても、ものになるのはごく一握りという分野もあります。また、原理的なところの確認ができた時点から、実際に市販できる商品ができるまでかなり期間がかかることもあります。また、開発初期の段階ではまだ様々な選択肢がありますから、いろいろな方向にアイディアをふくらませて出願することもあると思います。

審査請求の期限である出願から3年までに、その出願に関する商品が世に出ているとは限りません。ものになるかならないかまだわからないまま、本当に審査請求する価値があるかどうか見極めなければなりません。

審査請求費用はかなり高額です。うまく製品化につながったときに特許権を確保しておかなければ仕方がないけど、製品化につながらなかった出願にかかった費用は無駄になってしまいます。

審査開始を遅らせることができれば、審査請求費用を半額取り戻せる期間が長くなり、無駄な費用を多少なりとも抑えることができます。

また、製品化されていない時点で権利化するのはリスクを伴います。たとえば請求項1の新規性が否定されるなどして単一性がなくなってしまった場合に、上記のように製品化できるかどうかまだ判断できない状況では、コストを考慮して分割出願をせずに下位のどれかの請求項に限定することを考えることもあります。あるいは先行技術との差別化のために構成要件を請求項に加えることもあります。なるべく権利範囲が狭くならないよう、限定する構成要件を選定することになりますが、中間対応時には必須の構成要件と思われていたものが実は必須ではなくなるということは時々あると思います。明細書に技術思想は十分に開示してあっても、結果的に無用な構成要件が請求項に記載されていたら権利範囲は狭くなってしまいます。

当初の明細書に記載された全部が権利化できなくなったとき、明細書の中のどこを生かすかを考えるときに、製品化が決まってないと苦労することになります。

三者の監視負荷、審査の迅速化など考えると難しいところもあると思いますけど…、なるべく早く実施されるとよいなあ。

「グリーン早期審査・早期審理」の試行開始


早期審査・早期審理の対象として新たに「グリーン関連出願」を加えます。ここで、「グリーン関連出願」とは、グリーン発明(省エネ、CO2削減等の効果を有する発明)について特許を受けようとする特許出願のことをいいます。

via: 「グリーン早期審査・早期審理」の試行開始について
こんなのがでているわけですが、どこまでが「グリーン発明」なんでしょうか。

早期審査・早期審理ガイドラインには、早期審査として選定できない事例として、


○グリーン関連出願(省エネ、CO2 削減等の効果を有する発明について特許を受けようとする特許出願)
(例1)事情の欄に、グリーン関連であることについて何ら記載がない場合
(例2)グリーン関連出願とは全く関係のない事情が記載されている場合
(例3)グリーン関連出願であることの説明が、明細書の記載に基づいていないことが明らかである場合

via: 早期審査・早期審理ガイドライン

といった例が記載されています。
この例からすると、明細書に省エネ、CO2削減の効果が記載されていて、早期審査の際に事情の欄に正しく記載してありさえすればグリーン関連出願と認めてもらえるということでしょうか。

ところで、小型化、薄型化、軽量化、長寿命化、製造の容易化、低コスト化、手続きの簡便化、等々、発明の効果としてよくある内容って、見方を変えると省エネ、CO2の削減につながると思うんですよね。環境対策が主ではない発明についても、明細書には省エネやCO2削減の効果をちょろっと書いておけば、いざというとき早期審査の対象にすることができるかもしれません。

まあ、本当に「いざというとき」であれば、実施関連出願ということで早期審査の対象になる場合が多いでしょうけど…

特許(実案)のみを担当できる「特許弁理士」というのは実現できないものか

知的財産立国ということで様々な施策が打たれたこともあり、弁理士は急増しています。
コラム:馬場 錬成氏「知財戦略で勝つ」第120回「急増する弁理士を活用する社会を作ろう」によると、09年6月30日現在で8194名とのことで、10年程前と比較すると2倍程度の人数になっています。

今後も試験に合格して弁理士登録する人数はそれなりの人数が出てくるでしょうし、数年後には任期付き審査官が7年以上の審査官経験によって弁理士資格を得て大量に野に下ってきます。

にもかかわらず、特許出願件数は頭打ちです。今年は景気の影響もあり、件数がかなり減っているようです。ピークを過ぎたかもしれません。このままでいくと、弁理士一人あたりの特許件数というのは激減する事になります。日本弁理士政治連盟は、今年の7月に提出した陳情書で、



試験制度のレベルダウン、需要を遥かに超えた増員、料金競争、能力・資質の全くない専門外の士業への業務開放の議論等々、国家資格制度の存在意義と矛盾する現象を生じ、制度崩壊の危機に瀕しております。
日本弁理士政治連盟 河村内閣官房長官に「陳情の儀」を提出! から引用
と窮状を訴えています。
※余談ですが、この陳情文は少々問題があるような気がしますね。既得権益にしがみついて感情的になっているように読めてしまいますし、具体的に何を陳情したいのか文面のあちこちにちりばめてあって明確じゃないです……

その一方で、弁理士がまだ足りていないという考え方もあります。地方在住の弁理士が少ないということ、中小企業に十分に手が届いていないこと、特許事務所内で「特許技術者」が本来弁理士にしか出来ないはずの業務を行っている場合があるという噂があることなど、実際に足りていないとも思える状況もあるようです。また、以前よりは合格しやすくなったとはいえ、やはり弁理士試験の難易度は高く、かなりの勉強時間が必要で、また地方在住者が取得するには困難が伴います。大都市居住者が資格を取得し、そのまま大都市で職を見つける事が多いでしょうから、地方には弁理士は来ません(もちろん十分な仕事量がないこともありますが)

で、思うんですけど、今必要とされている人材って、本当に「弁理士」なんでしょうか。弁理士って、特許だけじゃなく意匠とか商標に関わる手続きを独占的に行うことが出来る資格ですけど、特許(および実案)に専門的な知識を有していれば(逆に言えば意匠、商標を知らなくとも)出来ること、というのも結構ある気がするんです。

弁理士の下位資格として、特許限定の弁理士資格を創設するっていうのはどうでしょうか。意匠も絡めた権利化とか、訴訟対応などは上位資格の弁理士にお願いすることにして、特許の専門知識さえあれば出来ることについては特許限定の弁理士でも行えるようにすればよいように思います。

企業の知財部員、特許事務所の特許技術者、知財コンサルタントなどが特許限定の弁理士資格を持って職務にあたれると良いですね。

分野が狭いとはいえ、十分な専門知識を有していることを保証された資格者であれば十分な能力発揮が期待できますし、従来からの万能型の弁理士に比べると資格取得のハードルが多少下がり、増員が期待できます。特許業務に携わっていれば、地方在住での権利取得も以前よりはやりやすくなるでしょう。これにより、特許事務所内で有資格者が増えて名義貸しに近いようなことは起こりづらくなるでしょうし、特許限定の弁理士から従来からの万能型の弁理士資格にステップアップするルートを設けておけば、受験者にとってもメリットがあると思います。また、従来からの弁理士にとっても面子が保たれる、という側面もあると思われます。

ちなみに、資格の名称ですが、「限定」という表現があると



もらった名刺に「(特許限定)」とか入ってたらちょっと嫌だろうなぁ。
「弁理」屋むだばなし: 限定免許ばなし から引用
などという感じを持たれることもありそうですから、「特許弁理士」とでもした方がいいように思います。大昔の資格名に戻ったような感じですが。

以上、お盆休み中に、

河村内閣官房長官に「陳情の儀」を提出!
http://www.benseiren.gr.jp/M1/furuya/f198_1.html

BizPlus:コラム:馬場 錬成氏「知財戦略で勝つ」第120回「急増する弁理士を活用する社会を作ろう」
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/baba.cfm?i=20090804c8000c8&p=1

これから求められる弁理士像とは
http://www.ipnext.jp/journal/benrishi/shoubayashi.html

等読んでふと思ったことでした。検索してうまく見つけられなかったんですけど、もしかするとどこかで既に真剣に議論されてるかもしれませんけどね。

米国仮出願番号からの検索(USPTO)

仮出願番号だけ分かっていて、どのような内容の出願がされたのかを確認したい場合がたまにあります。しょっちゅうあるわけではないので、どうやって調べるのが効率的か忘れてしまいます。意外と引っかかるので自分のメモを兼ねてまとめてみます。

自分で理解するにあたり、考え方のポイントは下記2点であると思いました。

●仮出願も正式な出願であって、出願番号を持つ単独の出願であること

ですから、USPTOのPatent searchで「provisional application number」のような検索フィールドを探しても見つかりません。普通に出願番号として扱われていますので。

●仮出願は審査も出願公開もされずに放棄されること

ですから、USPTOのPatent SearchのIssued PatentやPatent Applicationを検索するところで、出願番号として("AN"として)仮出願番号を入れてもヒットしません。仮出願の出願番号をもった出願は登録されませんし、出願公開も行われませんから。


これらのことより、「仮出願である」ことに惑わされず、優先権主張の基礎出願の出願番号から後願を探すという事を普通に行えばいいことになります。
実際に探す手順ですが、
基本は、USPTOのPublic PAIRを使うのが正解だと思います。
http://portal.uspto.gov/external/portal/pair
から、
Application Numberに仮出願番号を入れて検索し、出てきた結果の「Countinuity Data」のタブをクリックすると、関連出願を一網打尽に出来ます。ある程度以上新しい仮出願になると、「Image File Wrapper」のタブから、仮出願の内容を閲覧できます。後願が公開公報、登録公報などで公開された仮出願については、PAIRから閲覧できるようになるようです。古いものについては、包袋を取り寄せれば同様の基準(後願が公開されていること)で閲覧できるものと思われます。

また、USPTOのPatent Searchで探すときは、いずれもAddvanced Searchから、Issued Patentで探す場合には

PARN Parent Case Information
RLAP Related US App. Data
どちらかを使います。
PARN/60/xxxxxx
RLAP/60xxxxxx
いずれかの形式になります。
Patent Applicationで探す場合には
RLAP Related US App. Data
で検索する事になります。
ただ、未登録のものはIssued Patentの方では検索できませんし、公開制度以前、あるいは非公開申請したものは登録済みであってもPatent applicationでは検索できません。Public PAIRを使うのがやはり一番確実であると思われます。
※もしかすると一番最新の仮出願情報を検索できるのはPatent applicationのデータかもしれません。(後願が公開されたという情報がPAIRのデータベースに入力されないと公開番号をPAIRから得ることは出来ないはずですが、タイムラグがどれだけあるかは未確認です。)

Ultra-Patent正式サービス開始(有償化)

もう1ヶ月前になりますが、7/1から、ついにUltra-Patent(http://www.ultra-patent.jp/Search/Search+.aspx)が正式サービスを開始、ベータ版として無償で公開されていた昨日の数々が残念ながら有償化されてしまいました。

有償化されるというニュースはかなり前に聞いていたのですが、職場で使ってる商用の特許検索システムを切り替えてからほとんどUltra-Patentを使わなくなっていました。
この間ちょっと思い出して、使ってみようかと思ってアクセスして「ああ、そうだった」と思う始末。無償のうちにもっと使っておけば良かったかも。

早速使ってみましたが、無償で使える機能も残っています。
検索はきっちり出来るみたいですが、閲覧機能、出力機能がさっぱり使えなくなってしまった、という感じでしょうか。
独立項が色分けされた請求項表示、クレーム和訳、PDF表示、ファミリ表示、レポート出力などの機能は、無償では一切使えなくなってしまいました。
しかし、「使いたい」と思える機能も残っていました。FI、Fターム、IPC、USクラスなどの分類にマウスオーバーすると分類の意味が表示される機能です。これがあるだけでも時々このサイトで検索する価値があるかな、と思います。

http://www.ultra-patent.jp/License/PriceInfomation.aspx
によると、利用料金は月1万円だそうです。最近日本のDBで米国も収録されているのは当たり前になってきていますが、欧州、中国が検索できてこの金額はそこそこお得感はある金額であるとは思います。
しかし、生死情報がないなど、日本特許検索として本格的に使おうと思うとちょっと物足りなさが残る検索機能ですから、どうしてもサブの検索システムという位置づけざるを得ません。かといって外国特許検索についても特別な強さを持っているともいえず、立ち位置が難しそうですね。自社で導入したいと思うか、と考えると正直難しいです。いろいろ出来るんだけど、これ、という強みを感じない感じですね。器用貧乏に陥っているように感じます。
正式サービス自体が頓挫してしまうと、無償で提供されている部分も提供できなくなってしまう事でしょうから、正式サービスが順調にお客さんを増やしてくれることを祈念します。

トライウェイ試行終了

特許庁の更新情報に、「トライウェイ試行について」が出てました。



日本国特許庁、米国特許商標庁、欧州特許庁の三極特許庁は、サーチ結果を情報共有するプロジェクト「トライウェイ(Triway)」の試行プログラムを、平成20年7月28日から開始いたします。

(3) 試行の終了
対象案件が100件選定された時点、又は、試行期間(開始から1年間)のいずれか早い時点で、トライウェイ試行への参加受付を終了します。※参加受付は終了しました。
トライウェイ試行について から引用
開始したのが1年前で、この時期に参加受付終了のアナウンスのようですから、対象案件が100件に満たないうちに1年が経過してしまったようです。
もともとどの程度の件数を見込んでいたのか分かりませんが、十分に制度の運用を確認できる程度の件数があったんでしょうか。

日米欧3極のサーチ結果を有効活用という趣旨は理解できますが、なるべく現行の制度の範囲内での試行でしょうから、やはり手続きがややこしいですね。

これがきちんと制度化されて、PCTともうまく連動して扱えるようになると便利なんですけどね。
3極のサーチ結果が相互利用されると、かなりの範囲の先行文献をベースに特許性を判断してもらえるから、後で無効化されるおそれは小さくなって、権利としては安定する可能性が高くなりますからね(権利化のハードルは高くなるんですが)

これを書いていて思いだしたんですが、最近中国の審査が結構ハードル高くありませんか?
普通に日本と米国の先行技術を組み合わせて特許性を否定する拒絶理由が来ます。日本の文献中心に調査する日本の特許庁よりも米国の文献中心に調査する米国特許庁よりも厳しい拒絶理由が来たり。
まあ、中途半端に権利化して後で無効になる要素をはらんでしまうよりはいいんでしょうけどね。