特許の産業の発達に対する貢献について妄想

特許法には、特許制度を設ける目的が書いてあります。

(目的)
第一条  この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

特許法 から引用

本当に特許制度は産業の発達に寄与しているのでしょうか。

ソフトウェア特許ビジネスモデル特許は、独占権を与える弊害の方が大きく見えることも多いように思います。また、電子産業や自動車産業などでは、関連技術の裾野が広すぎて1社の特許だけでは製品を完成できないため、包括でクロスライセンスをして互いの特許を使う場合が多いのですが、そういう場合には特許1件毎の勝ちは明確ではないですし、また新規参入しようという人には障壁になります。

最近、ソフトウェア特許を廃止すべきと主張する米国のグループが論文を募集している、という記事が出ていました。その中に、このような発言がありました。

 Feld氏によれば、多くの人が信じている内容に反して、特許は投資のインセンティブにもなっていないという。彼は“会社の立ち上げ時期に時間と金を注ぎ込んで”特許を取得するという考えを退け、その理由をこう述べている。「特許取得の手続きを進めるということは、どうやってマーケットに参入するかこそが本当に重要である時期に3〜4年も待つということを意味する。特許の権利を主張するにせよ保護するにせよ、実際にそこにかかるコストは特許によって得られる利益を上回る」
Open Tech Press | ソフトウェア特許に強気で臨むEnd Software Patentsプロジェクト から引用

この文脈はベンチャーを立ち上げるようなタイミングでの話のようです。しかし、社会全体で見ても、もしかしたらそうかもしれません。特許制度を維持するためのコスト、および、特許制度があるために負担しなければならないコストは、本当に産業に貢献しているんでしょうか。

そんなことを考えながら、積み上げてみました。
(あくまで妄想なので、数値が不正確であるという確信があります。鵜呑みにしないで読んでください。)

今、日本では毎年40万件の特許が出願されています。代理人にお願いすると1件あたり数十万円ということになるでしょう。代理人を立てない案件もあることを考えて低めに見積もって仮に1件20万円とすると、単純計算で800億円です。外国に出願する件数を仮に10万件として、1件50万円とすると500億円です。また、特許検索システム、特許管理システムなどの情報システム関連、特許調査会社など関連ビジネスもあります。訴訟となれば弁護士費用もかかります。各企業が負担している知財担当者の人件費もあるでしょう。さらに、特許庁の特許特別会計の規模は平成20年度予算の支出額が1200億円程度です。乱暴に合計して、少なくとも数千億円規模の「特許産業」が存在していることが分かります。

すくなくとも、特許制度は、年間数千億円規模の「特許産業」を維持しているという意味で産業に貢献していることが分かります。

さて、この数千億円規模の特許産業は、特許制度があるために存在しているものですから、特許制度自体がもしなければ不要なものになります。もし、この毎年数千億円規模でかかっているお金を、すべて研究開発投資に回すことができたとしたらどうでしょうか。

ううん……数千億円では、きっと産業構造に大きな変革をもたらす程の額ではないですね……。2007年度のトヨタ1社の研究開発投資が9400億円と報道されていますから(http://www.nikkei.co.jp/report/kenkyu/20070802b2a82001_02.html)。

そう考えると、やはり特許制度があることによって、社会全体で大きな負担をすることなく発明を利用したり出願公開によって多重投資を回避したりして、産業の発達に寄与していると考えていいんでしょうね……。

うん、そう考えることにしよう。