独禁法と知的財産法

技術を公開する代償に一定期間の独占権を得る、というのが特許の考え方ですから、独占権が得られるのが特許権の本質ともいえます。法律で独占権を認めているものですから、一般論として、特許などの知的財産権独禁法の例外として扱われます。特許権の行使そのものは独禁法に違反しません。

しかし、ライセンス契約時に不公正な条項が入っていたりすると、独占禁止法違反に問われることもあります。

ということ自体は知ってはいたものの、今ひとつどういうときにアウトなのかピンときていなかったのですが……

特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針
http://www.meti.go.jp/policy/kyoso_funso/pdf/tokkyo.pdf
というのが公正取引委員会から出ているのも知ってはいたのですが、なかなか目を通せず……

そうしたら、こんなニュースが流れてきたので、ちょっと目を通してみました。



 携帯電話での通信に欠かせない多くの特許を持っている米通信技術大手「クアルコム」が日本の携帯電話関連の電機メーカー各社との間で契約を結ぶ際、メーカー側を不当に拘束する条件を含めていたとして、公正取引委員会独占禁止法違反(不公正な取引方法)で、クアルコム社に対し排除措置命令を出す方針を固めた。条件を改めるよう求める。
(中略)
 関係者によると、同社の技術を利用するメーカー各社とのライセンス契約には、たとえクアルコムなどがメーカー各社の特許権を侵害した疑いがあっても、メーカー側からは訴えを起こせない特許非係争(NAP)条項が盛り込まれている。さらに、一部のメーカーとの契約では、クアルコム側は各社の独自の特許を無償で使える「無償許諾」の条項も含まれるという。
asahi.com(朝日新聞社):米通信大手、携帯特許巡り不当契約 公取委が排除命令へ - 携帯電話 - デジタル から引用

この特許非係争条項、とか、無償許諾、の条項がアウトらしいですね。

これは、



第4 特許・ノウハウライセンス契約に関する不公正な取引方法の観点からの考え方
(中略)
3 ライセンスに伴う制限・義務等
(中略)
(6) 非係争義務
ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンシーが所有し、又は取得することとなる全部又は一部の特許権等をライセンサー又はライセンサーの指定する者に対して行使しない義務(注)を課すことは、ライセンサーが特許製品若しくは当該特許に係る技術の分野における有力な地位を強化することにつながること、又はライセンシーの特許権等の行使が制限されることによってライセンシーの研究開発の意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第13 項(拘束条件付取引)に該当)。
特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針 から引用
というところに該当しそうですね。

なかなかわかりにくいところなので、折に触れて見直してみたいです。

ところで、



さらに、一部のメーカーとの契約では、クアルコム側は各社の独自の特許を無償で使える「無償許諾」の条項も含まれるという。
asahi.com(朝日新聞社):米通信大手、携帯特許巡り不当契約 公取委が排除命令へ - 携帯電話 - デジタル から引用
通常他社の契約内容を知ることはないでしょうから、こういう形で他社に比べて不利な契約を結んでしまっていたことが分かってしまうというのはどうなんでしょう。契約担当者にとってはつらいことのような気がします。いずれ排除措置命令によって見直しがされるであろう契約とはいえ。