そのブログ!「法律違反」です 知らなかったではすまない知的財産権のルール

正直微妙ですね……。ブログや写真など、著作権を中心にして、ネットユーザーにとってどうこうという内容に絞ったほうが良かったんではないでしょうか。

ところで、本の内容でいくつか気になるところがあります。間違いとまでは言えないまでも、ちょっと注意して読んだ方がいい点がいくつか見受けられましたので記しておきます。

第一章のQ7において、アップロードは著作権侵害だが、ダウンロードは問題ないか?との問いに対して、回答が「×」となっており、「違法サイトからのダウンロード行為も、著作権を侵害する行為として違法化される可能性が高い」と書いてあります。
書いてある内容は理解できるのですが、ダウンロード違法化についてはまだ結論が出ていない項目でもあり、現行の法律においては「△」程度にしておく方が無難ではなかったでしょうか。「違法化される可能性もある」「現行法には触れないが好ましくない」といった表現にしておいた方が望ましかったのではないでしょうか。

第二章のQ10において、「メイド居酒屋」の店員の挨拶を模倣されたという事例で、挨拶自体を知的財産ととらえるのは難しいと回答してあります。
しかし、このような事例はどちらかといえば不正競争防止法の範疇であるようにも思えます。競合店がどこまで模倣しているかによって対応できるかどうかはもちろん違うのですが、挨拶をとらえて著作権で迫るよりも店の営業形態全体をとらえて不正競争防止法で考える方が常道なのではないでしょうか。

第三章のQ1においては、「他人のブログに書いてあった発明を出願しても良いか」との問いに対して、「○」と書いてあります。
この記述は大いに疑問です。
話全体の流れとしては、先使用権の話、先願主義の話などを通して不用意に開示してしまった発明は保護されないから注意しなさいという話になっています。つまり、ブログに書いてしまった側からの説明になっています。その説明自体は妥当なのですが、Q&Aと対応していません。「ブログに書いた発明を他人に出願されてしまったが云々」という設問に対する回答ならこれでいいのですが。
しかし、Q&Aの質問は他人のブログを読んで特許出願することの是非を問うものであり、やはりこれはそもそも公知であって特許にならないという点、冒認出願であり特許無効とされるおそれがある点を指摘して「×」と回答すべきではないでしょうか。

第四章のQ1は、「既に日本で特許を持っている技術が米国で他社に特許化された」シチュエーションを題材に、各国毎に独立の特許権が存在することを説明しています。同じ権利範囲を別々の出願人が別々の国で特許を取得することはあり得る話です。しかし、実際問題としては、審査段階では国内の先行技術を中心に調査するのに対して新規性の判断が世界公知となっているので、どちらかの権利が無効化される場合も多々あるものと考えられます。特に、日本で権利化されている場合日本語の公開公報は米国での審査の先行技術にはなりにくいでしょうし、審査が遅い日本で登録済みなのでしたら公開公報はずいぶん前に発行されている可能性がありますね。
また、特許を保有しているはずの技術で警告を受けるシチュエーションを想定すると、利用関係にある特許の場合の方が多そうなのですが、利用関係に関する説明はこの本には見あたらなかったですね。初心者向けではないのでしょうね。

第三章のQ8、第四章のQ3等の回答は、「知財の基本」というよりは「著者の思い」に近いように思います。この分量の本では十分に説明もできないので、知識がない人が読むと誤解するかもしれませんね。ちょっと注意が必要かもしれません。



全体としては、私としては最初にも書いたようにちょっと微妙でした。
「明日からのビジネスにも役立つ」というところで特許や商標の話も出てきますが、本のタイトルを見て読んで見ようかと思うような層にとっては関心がない分野かもしれません。また、知財についてある程度知りたいという人向け、あるいは専門的にやろうという人への入門書としてもちょっと内容が中途半端になっているような気がしますね……。
ですが、一通りのことはおおよそ書いてありますし、Q&A形式でさらっと読めるので学生さんなんかにはいいのかもしれません。