子供と特許




 ひもを引っ張るだけで、マイバッグをスポッと収納―。富山市立東部小学校5年の石黒紀行君(10)が、折りたたみ傘を改良して一瞬で畳める買い物用マイバッグ「スポッとバッグ」を考案して特許庁に出願。今月になって、同庁から査定証が届き、石黒君の特許取得が確実となった。


 発明のきっかけは、母志帆さん(●●)が「折り畳むのが面倒」と漏らした一言。昨年、夏休みの自由研究として、新しいマイバッグの制作に取り組んでいた時、不要になった折りたたみ傘に目が止まった。骨組みを取り外してバッグに作り替え、取りつけたひもを引っ張ってバッグを小さくし、かさ袋の中に収納する方法を思い付いた。

マイバッグをスポッと収納 富山の小5男子が特許取得へ - 47NEWS(よんななニュース) から引用
こういう文章では実用新案を思わせる「考案」という言葉は選ばないでほしいなあ(一般的な言葉だから仕方ないとは思うのですが……)とか、「査定証」などという物は存在しないであるとか、なぜお母さんの年齢が全国に晒されなければいけないのか良く分からない(上記引用では伏せ字にしておきました)とか、記事そのものにはつっこみどころはたくさんあるのですが、発明した子供さんはすばらしいですね。うちの長男と同い年なんだけどなあ。

IPDLでどんな特許か見てみようかな、と思ったんですが、見つからない。
あれ?と思ってよくよく記事を見れば当たり前。昨年の夏休みに発明してますから、まだ出願から1年6ヶ月経ってないんですよね。
それなのにもう特許査定が出てるって事は早期審査なんでしょうね。個人だ、というだけで早期審査の対象になりますしね。

考えてみると、子供が出願人になると、市長村民税非課税ですから審査請求料が免除。第1〜3年の特許料も免除、早期審査も個人であるというだけで可能。
無料ですから、出願と同時に審査請求でいいでしょうし、製品化予定とか外国出願に関係なく早期審査が認めらますからファーストアクションまで延々と待つ必要もなく、特許査定が出れば無料で登録。子供視点で見ると、ずいぶん違って見えますね。

独禁法と知的財産法

技術を公開する代償に一定期間の独占権を得る、というのが特許の考え方ですから、独占権が得られるのが特許権の本質ともいえます。法律で独占権を認めているものですから、一般論として、特許などの知的財産権独禁法の例外として扱われます。特許権の行使そのものは独禁法に違反しません。

しかし、ライセンス契約時に不公正な条項が入っていたりすると、独占禁止法違反に問われることもあります。

ということ自体は知ってはいたものの、今ひとつどういうときにアウトなのかピンときていなかったのですが……

特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針
http://www.meti.go.jp/policy/kyoso_funso/pdf/tokkyo.pdf
というのが公正取引委員会から出ているのも知ってはいたのですが、なかなか目を通せず……

そうしたら、こんなニュースが流れてきたので、ちょっと目を通してみました。



 携帯電話での通信に欠かせない多くの特許を持っている米通信技術大手「クアルコム」が日本の携帯電話関連の電機メーカー各社との間で契約を結ぶ際、メーカー側を不当に拘束する条件を含めていたとして、公正取引委員会独占禁止法違反(不公正な取引方法)で、クアルコム社に対し排除措置命令を出す方針を固めた。条件を改めるよう求める。
(中略)
 関係者によると、同社の技術を利用するメーカー各社とのライセンス契約には、たとえクアルコムなどがメーカー各社の特許権を侵害した疑いがあっても、メーカー側からは訴えを起こせない特許非係争(NAP)条項が盛り込まれている。さらに、一部のメーカーとの契約では、クアルコム側は各社の独自の特許を無償で使える「無償許諾」の条項も含まれるという。
asahi.com(朝日新聞社):米通信大手、携帯特許巡り不当契約 公取委が排除命令へ - 携帯電話 - デジタル から引用

この特許非係争条項、とか、無償許諾、の条項がアウトらしいですね。

これは、



第4 特許・ノウハウライセンス契約に関する不公正な取引方法の観点からの考え方
(中略)
3 ライセンスに伴う制限・義務等
(中略)
(6) 非係争義務
ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンシーが所有し、又は取得することとなる全部又は一部の特許権等をライセンサー又はライセンサーの指定する者に対して行使しない義務(注)を課すことは、ライセンサーが特許製品若しくは当該特許に係る技術の分野における有力な地位を強化することにつながること、又はライセンシーの特許権等の行使が制限されることによってライセンシーの研究開発の意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第13 項(拘束条件付取引)に該当)。
特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針 から引用
というところに該当しそうですね。

なかなかわかりにくいところなので、折に触れて見直してみたいです。

ところで、



さらに、一部のメーカーとの契約では、クアルコム側は各社の独自の特許を無償で使える「無償許諾」の条項も含まれるという。
asahi.com(朝日新聞社):米通信大手、携帯特許巡り不当契約 公取委が排除命令へ - 携帯電話 - デジタル から引用
通常他社の契約内容を知ることはないでしょうから、こういう形で他社に比べて不利な契約を結んでしまっていたことが分かってしまうというのはどうなんでしょう。契約担当者にとってはつらいことのような気がします。いずれ排除措置命令によって見直しがされるであろう契約とはいえ。

パトリスへの期待

検索サービスはきっと割に合わない商売になっていくでしょうから、完全にデータ作成に特化して、他の商用DBにPATOLISのデータを提供するって訳にはいかないでしょうかね。
当然有償オプションになるでしょうけど、他社の商用DBの進歩したインタフェースで、当然従量制じゃなく検索し放題で、PATOLISの信頼できるデータで検索できるっていうのはすごく魅力的なんですけどね。

外資が支援に乗り出すと、データ独り占めしますかね……。

衝撃

衝撃のあまり久々に更新。

あのパトリスが……




民事再生手続開始申立のご案内





当社は、平成21年7月17日、東京地方裁判所に対し民事再生手続開始の申立を致しましたのでお知らせいたします(平成21年(再)第195号)。



ご契約者の皆様にはご心配をお掛けして申し訳ありませんが、民事再生手続開始申立により、ご契約者の皆様による弊社PATOLISサービスのご利用に支障が生ずることはなく、従前と全く同様にご利用いただけます。何卒、弊社の民事再生手続にご理解を頂き、引き続きご支援とご協力を賜りますよう重ねてお願い申し上げます。



なお、ご不明な点等ございましたら、弊社宛てお問合せください。

PATOLIS|お知らせ から引用

民事再生法とは……
データベースの使用目的にもよるでしょうけど、やはり使い放題の商用データベースが一般的になってきたいま、従量制のサービスが使いにくいのは間違いなく、複数契約している企業がどこから切るか、といったらパトリスを切ってしまう状況になりつつあったのではないかと。





1978年、日本初の特許情報オンライン検索システムとして登場した「PATOLIS」を(財)日本特許情報機構(JAPIO)から引き継いで誕生したパトリス社が7月17日、民事再生手続き開始の申し立てをしていたことが、このほど分かった。かねて経営状況の厳しさは伝えられていたが、「厳しいということは聞いていたが老舗だけに業界に与える影響は大きい」(都内の知財情報会社のトップ)と、知財業界の関係者は衝撃を受けている。通産省OBで元シャープ副社長、JAPIO理事長だった和田裕氏が経営を続けてきたが数年前に経営悪化の責任をとり退任、その後同社は減資を実施、東芝などから支援を受け加根魯澄夫新社長が経営再建に動いていた。昨年度は単年度黒字となったが、負債額が大きく、資金繰り返すがひっ迫していたもよう。同社の経営支援先としてはこれまでソフトバンク系企業など、いくつか挙がっていたが折り合わず、現在は外資系企業と折衝しているもよう。(2009年7月21日)

[インテレクタス アイ] から引用
外資系か……
この方面のデータベース会社でM&Aといったらトムソンぐらいしか思いつかないけど……
PATOLIS海外のウィズドメインって線もあるのかな。
どこが支援するとしても、貴重なデータを持っているので、データベースユーザーにとってもメリットある形にまとまってくれるといいなあと思います。

特許法改正の報道

新年早々日経に記事が出てたみたいですね。「聴く日経」でトップ扱いでびっくりしました。

でも、よく分からない記事です……




特許、ソフトも保護対象に 大幅な法改正、特許庁検討


 特許庁特許法の大幅見直しに向けた検討に入る。「モノ」が対象だった特許の保護対象にソフトウエアなどの無形資産を追加。技術革新を促すため、企業や大学が持つ特許を開放する際のルールを整え、相互に活用しやすい環境を整備する。インターネットの普及など経済の構造変化に対応する一方で、日本企業の国際競争力を高める狙い。企業の知的財産戦略にも大きな影響を与えそうだ。

特許、ソフトも保護対象に 大幅な法改正、特許庁検討 ビジネス-最新ニュース:IT-PLUS から引用
もともと特許の保護対象に「方法」も入ってますから無形資産も特許保護対象なんですよね。しかも、特許法の「物」には、わざわざ注釈がしてあって、「物(プログラム等を含む。以下同じ。)」としてプログラムも特許の対象であることが明記されている。そうすると、改正によって今まで特許にならなかったどういうたぐいの物を特許の保護対象にしようとしているのかがよく分からないですね。
「発明」の定義を見直そうということなんでしょうか。「自然法則を利用した技術的思想の創作」という定義を見直して、自然法則を利用していないプログラムにも特許を与えようというのでしょうかね。

早い特許査定

先日特許査定が出た案件があります。
なんかそれほど昔の案件じゃないような気がしてよくよく見ると、びっくり。
審査請求したのが8月終わりでした。わずか1ヶ月半で特許査定が出たことになります。
早期審査でもないのに、こんな事もあるんですね。
特許行政年次報告書2008年版によると、2007年実績で審査待ち期間は平均27ヶ月、早期審査でも2.2ヶ月だというのに……

早期の権利化を意図したならいいのですが、ある程度期間があるからその間にビジネスが有望かどうか見極めようなどと思っていたところに急に特許査定が来てしまうと、戸惑ってしまうこともあるかもしれないですね。

ダウンロード違法化へ

私的録音録画小委員会で、ダウンロード違法化の骨子案が了承されたようですね。





iPod課金”見送り ダウンロード違法化へCommentsAdd Star

iPodへの補償金課金は見送り、違法録画・録音物のダウンロードは違法に――私的録音録画小委員会が3カ月ぶりに開かれ、こんな内容の報告書骨子案がおおむね了承された。

私的録音録画小委員会:“iPod課金”見送り ダウンロード違法化へ - ITmedia News から引用

文章、写真、絵、プログラムなどコンピュータで使うことが出来てダウンロード可能なコンテンツはいろいろある中で、音楽、映像のみが違法化の対象になるというあたりに何とも腑に落ちないものを感じるところではありますが、やむを得ないといった感もないわけではありません。

もともと違法ダウンロードしていた人たちがこの改正でやめるか、というと実効性には薄いのかもしれませんが、知的財産立国を掲げるに当たっては保護の姿勢を明確にすることも必要かとも思います。

ただ、作品は沢山の人の目に触れることが望ましいとも思います。がんじがらめになって使えないのではなく、合法的に、適切な価格で積極的に利用できるようになってほしいと思います。

ところで、小委員会の委員である津田氏が2chにスレを立てたそうですね。時代が、情報の流れ方が変わりつつあるんだなあ、という感慨がありますね。